投稿者:工藤 三四郎

第2話 金融商品の運用

金融商品が家電製品と一番違うのは、“かたちがない”ということです。「テレビを買って後悔した」というひとがあまりいないのは、事前にちゃんと調べればそのとうりの商品が手に入り納得感があるからです。それに対して、かたちのない株式や投資信託ではこうした「買い物の常識」が全く通用しません。誰もが戸惑うのは、株式や投資信託などの金融商品は「損をする」ことがある、ということです。そもそも買い物は得をすると思うから成り立つわけで、「損をしたのに文句を言えない」のは理不尽な体験です。金融商品のもう一つの特徴は、「良い商品」と「悪い商品」の区別がつかないことです。これまでものすごく儲かっていた株式や投資信託が買ったとたんに暴落してしまった、ということが頻繁に起きます。

過去の成績は将来の予測になんの役にも立たない。

もっともその代わり、金融商品は投資家にとてつもない幸運をもたらすことがあります。株価が5倍や10倍に上がることは珍しくなく、前回紹介したアルバイトで貯めた160万円をたった5年で150億円に増やした若者や、FX(為替)で4億円を超える利益を上げ、1億4000万円を脱税していた主婦が話題になったこともあリます。

 1 金融商品運用の4つの原則確実に儲かる話はあなたのところには絶対に来ない

“絶対儲かる”ならば、赤の他人に儲け話を持って行ったりせず、自分だけで独占すればいいわけです。 

 2 誰も他人のお金のことを真剣に考えたりしない

ファンドマネージャーは投資家から預かったお金を運用するが、彼らの顧客は見ず知らずの他人です。一面識のないひとのことを心のそこから大切に思うことはないのです。だから不特定多数が投資をするファンドでは運用のルールが厳密に定められているのです。

 3 誰も本当のことを教えてはくれない

日本は法治国家なので、どれほど怪しくても司法の判断が降るまで全ての人は推定無罪です。よほどのことがないかぎり容疑者が逮捕されるまで事件として報じられることはありません。内部告発でもないかぎり不正を証明するのは困難です。

2007年に、仮想通貨「円天」で5万人を超える会員から1000億円も集めた詐欺事件

和牛商法で被害総額4200億円の安愚楽牧場の詐欺事件も、怪しい話だと分かっていても、確たる証拠が出るまで手のうちようがないのです。 

 4 自分の資産は自分で守るしかない

投資においてもっとも大事なことは、損をしないことではなく騙されないことです。

儲けるためにはリスクを取らなくてはならず、リスクを取れば損をすることもある。

投資には損失はつきものだが、それはリスク分散で管理できる投資運用理論というのは要するのこういうことなのです。これは株式投資に限ったことではありません。不動産投資や新規ビジネスにおいて共通します。うまい話は全て無視するに限る。

株価はどのように決まるか?

コロナの影響で日経平均が〇〇下がり、コロナが落ち着きを見せ始め、現在は〇〇円戻し

〇〇円です。株価はこれからどのようになっていくのか。未来のことは誰にも分からないわけですが、標準的なファイナンス理論で、将来の株価を予測するヒントを得ることは可能です。「株価はどのように決まるか?」実はこの質問には唯一無二の正解があります。それもわずか次の一行で要約が可能です。

会社の株価は、将来の一株あたりのの利益の総額を現在価値に換算したものです。

これはいったい何をいっているのでしょうか。将来のお金が今すぐ手に入ったとしたら、いくらになるかが「現在価値」です。一年後に100万円を受け取る証分を持っているが、現金が足りないとしましょう。金融業者に話をすると、95万円でその証文を買い取るという。この時「一年後の100万円の現在価値は95万円」といいます。

株式を購入すると、会社の利益から配当を受け取ることができます。一年後の配当が100万円で、そこで会社が解散することがあらかじめわかっているとすると、この株の値段はいくらになるだろう。これは先ほどと全く同じ話だから、リスク(お金が支払われる見通し)も変わらないとすれば、やはり95万円で換金してくれるはずです。

現在価値は、「将来のお金を取引する値段」のことです。不確実な将来のお金は、確実な目の前のお金より価値が低いから、いついかなる場合も現在価値は将来価値より小さくなる。

この時の減額の割合が「割引率」で、一年後の100万円の値段が95万円なら割引率は5.3%です(95万円を年利5.3%で預けたら一年後に100万円になるのと同じこと)

会社の経営者は、株主の代理人で、株主から預かった資本で事業を運営し、できるだけ多くの利益を上げるのが仕事です。この利益は、売上から原材料や人件費など諸々の経費(コスト)を支払い、さらに税金(法人税)を納めた残りで、会計上は「純利益」として計上されます。この純利益は、配当をするかどうかにかかわらず、すべて株主のものです。

年度末の純利益が10億円で、発行株式数が100万株だと、一株あたりの純利益は1000円になります(10億円÷100万株)これをESP(Earnings Per Share)といい、日本語で

「一株あたり純利益」のことです。

PERという魔法の数字

それでは次に、1000円のEPSが未来永劫続くとしたら。株価はいくらになるか考えてみましょう。これは要するに、毎年1000円の利息が振り込まれてくるのが、元本は永久に返済されない債権のことです(こうした金融商品を「永久債」と言います)。

この計算は簡単で、EPSの1000円を一定の割引率(ここでは5%にします)で現在価値に割戻し、それを合計することで求められます。要は毎年入ってくるお金を金利(割引率)で割るだけでいいのです。すなわち。1000円を5%で割った2万円が「正しい株価」になります。このように、株式の理論株価はたった一度の割り算で導き出すことができます。

株価=EPS÷金利

株式の価格が将来の利益の分配権である限り、原理的に株価の決め方はこれ以外にはありません。その意味でこの数式は、唯一無二の株式投資の真理と考えられます。

もちろん、未来の利益(EPS)を知るには神の目が必要だし、金利も日々変動しています。

「こんな机上の空論になんの意味があるのか」と思うひともいるでしょうが、馬鹿にするのはまだ早い。「正しい株価」は永遠の謎だとしても、株価が割安か割高かはかなり正しい判断ができるようになります。

株価1万円でEPSが1000円なら、1株あたりの利益率は10%になる。預金にとっての利息と同じだから、当然高ければ高いほど魅力的です。このEPSより投資の指標としてよく使われるのが、その逆数であるPER(Price Earning Ratio)です。PERは、一株あたり純利益に対して何倍の株価で取引されているかを示したものです。同様に、EPSが500円ならPERは20倍(利回り5%)、EPSが2000円ならPERは5倍(利回り20%)です。このようにPERは低ければ引くほど魅力的ということです(利回りが高くなる)。

株価1万円としてEPS1000円ならPERは10倍でこの時の利回りは10%です。

今回の最後に「会社の株価は、一株あたりの純益の総額を現在価値に換算したものである」この金融理論は、株式だけでなく、不動産投資、会社の買収価格算定、プロジェクトの価値算定など、お金が介在する取引や意思決定に活用できる応用範囲の広い考え方ですので覚えておきましょう。

家賃10万円/月で貸せるマンションの価格は2400万円。年間10億円の純益を稼ぐ会社の値段は200億円(買収価格の算定は様々ありますが上場企業の基本はこれです)。皆さんも考えてみてください(ここで使う割引率は、期待値、ハードルレートなどと呼ばれますが同じです)。→割引率5%の場合、対象となる投資リスクの大小で決まる値です。

今回はここまで。