投稿者:工藤 三四郎

第3話  株式投資

株式投資のリスクプレミアム
銀行預金と株式投資を比較する場合は、両者のリスクの違いを考えなければなりません。
元本保証のある預金は無リスクですが、株式は値下がりのリスクがあります。当然リスクの分 だけリターンが高くなければ株を買う意味はない。これがリスクプレミアムで「リスクの代償」です。
株式投資のリスクプレミアムは市場によっても、銘柄によっても異なりますが、平均すれば5%程度ではないかと思います。現在の日本はゼロ金利に近いので、株式投資の利回りが5%以上(PER20倍以下)なら、その株式は割安で投資できる。利回り5%以下(PER20倍以上)ならその株価は割高で投資をしないか売ったほうがいいことになる。
預金金利はインフレ率に応じて変化する。毎年物価が5%上がるのにゼロ金利のままなら、銀行に預けてる間にお金の実質価値はどんどん目減りしていきます。 これでは誰も預金などしないから、インフレの分だけ金利も上がらなければなりません(理屈上はそうなる)。
こうして銀行の金利が5%になったとして、その時に株式投資の利回りが5%(PER20倍)のままなら、リターンが同じでリスクだけが大きのだから、誰も株など買いません。
このとき株の利回り5%にリスクプレミアムの5%を加えて10%(PER10倍)にならなければならないのです。

株式投資の利回り=インフレ率(長期金利)+リスクプレミアム
株式投資において継続して10%の利回りで運用できるひとは、プロのファンドマネージャーで成功できると思います(第1回で紹介)。
デフレ下においてはお金の価値は下がることはありませんので、下手に投資をするより、普通 預金に積んでおく方がいいともいえる。
ここで投資の話題から少し外れますが
なぜ日本企業の利益率が米企業に比較して低いか
日本の失業率は4%で、5%を超えると自殺者が急増するなど大きな社会問題になります。
それに対して業績悪化による整理解雇が認められているアメリカでは、リーマンショック以降、失業率はずっと9%前後で、その後下がり始めたものの現時点では6.7%くらいで推移(不況に苦しむギリシャやスペインでは失業率25%に達している)
収益率を上げるもっとも確実な方法は、不採算部門から撤退し、収益性の高い部門に全ての資本(リソース)を投入することです。ところが日本では正規社員の解雇が事実上不可能なため、不採算部門を閉じると従業員の行き場が無くなってしまう。その結果、事業を継続していくためにコスト削減するしかなく、整理解雇ができない以上、残された手段は人件費を抑え込むことだけになります。こうしてボーナスが削られ、定期昇給がなくなり、やがては基本給までカットされ購買力が落ちることになってしまいます。
これが日本の物価が上がらない理由ならば、問題の本質は日銀が日銀券を大量に供給しないことではなく、硬直的で流動性の低い労働市場にあると考えられます。そう考えると「黒田バズーカ」がうまく機能できず、2%目標のインフレ誘導が失敗に終わっている理由がわかります。アベノミックスで株価上昇は円安でかさ上げしただけで、日本企業の収益性の低さはなにも変わっていなのです(労働市場の流動性や終身雇用制度は変わってきていますが)。

「未来を知ることができない」からこそ有効な投資法
「未来のことなんかわからない」だけどそれを言っちゃお終い。一年後の株価を知ることはできなとしても、理論上は、株式市場のおおよその傾向を判断することは可能だという話です。
フィナンス理論は超簡単に要約すると、「トレンドとボラリティがわかれば株式市場の将来は確率的に予測できる」ということです。
トレンドというのは、市場が上昇基調にあるのか、下落基調にあるのか、ということです。
ボラリティは市場の変動性のことです。ソフトバンクの株と東北電力の株ではソフトバンクのボラリティが高く、リスクも高い。株で大儲けを企むひとはボラリティの高い株式を購入するでしょうが、その分大損をすることも覚悟しなければなりません。
ここから「上昇するトレンドにあるボラリティの高い株式(市場)に投資をすれば儲かる」という統計学的に正しい投資法を導き出すことができます。
しかし、このフィナンス理論にふたつの批判があります。ひとつは、「トレンドの転換点は誰にもわからない」とういものです。
日本株がまだ上昇基調にあるなら、株価の下落は投資のチャンスになります。下落基調にトレンドが変わったのなら、未来に大惨事が待っていることになります。
株式市場の専門家であるアナリストの仕事は、このトレンドを読むことです。ところが困ったことに、様々な経済予測の的中率を調べると、専門家の予測は当たったり外れたりで当てずっぽうと少しも変わらない。
AIならできますかね?どのようなアルゴリズムかによるのでしょうけど、過去のビッグデータを集めても人間の情動で市場が動くとすれば、人間の判断より少しまし程度ではないでしょうか。

株式市場をまるごと購入する
経済学では、「株価は確率的にしか予想できない」と考えます。金融市場は複雑系だとすれば確率的にすら予想できないことになります。確率的にでも儲かる株を探すのは原理的に不可能だとするなら、投資の勉強などせず、別の好きなことに時間を使った方がいいということになります。
どの株が上がってどの株が下落するのかわからないなら、合理的な投資家は次のふたつの選択肢しかありません。
1) 何もしない
2) 銘柄選択をやめて株式市場をまるごと購入する
この選択肢は、どちらが正しいということはありません。バブル崩壊後のデフレ不況では株も不動産も値下がりしたら、もっとも賢いの全財産を預金しておくことでした。少なくともこれまでは、この素人くさい投資法はどんな“金融のプロ”より優れていた。
だがこれでは話が終わってしまうので、ここでもうひとつの選択肢を検討してみましょう。
「株式市場に投資をする」というと大それたことのようですが、市場平均(インデックス)の連動したファンドを買えばいいだけです。今は様々なインデックスファンドが、ネットで1万円から買えます。このインデックスファンドを株式市場に上場したものがETF(上場投資信託)です。
どうせ予測が難しいならまるごと株式市場に投資する。アクティブファンドとしてプロが金融知識を駆使し銘柄選択をしたファンドより、何にも考えずに市場に投資する方が高い成果を期待できるというのが過去の成績です。
株式投資は博打だと割り切って大儲けを考えるひとは、果敢に挑戦することは否定しません。しかし、退職金など大切なお金を銀行や証券会社の営業マンに勧めらるがままに投資(運用)することはお勧めしません。