政府は経済政策の柱として新資本主義による成長と分配を打ち出しています。
何が新しいのかよくわかりませんが美しい言葉が一人歩きすることなくしっかりと成果に結びつく中身のある政策を実行して欲しいと願うばかりです。
分配といえば日本の現役サリーマンの低賃金が大きな問題の一つではないかと思います。
大卒の初任給は20万円〜24万円でこれは平成の初期とほとんど変わらず、30年も上がっていないということです。この30年で平均賃金が2倍以上になった国は数多く存在するのにもかかわらずです。
政治家や経営者の中には日本は長くデフレで実質賃金は上がっていると言う方々がおられますがこれは嘘です。
なぜ給料が上がらないのか、その理由はわりとはっきりしていて日本企業の生産性が上がっていないからです。
日本企業の生産性の低さは以前から指摘されていたことですが最近のデータでは先進国(OECD)32カ国中なんと28位です。
生産性は、非常にシンプルな指標で、会社が生み出した付加価値額を分子に分母に投下した経営資源額(ヒト・モノ・カネ)で割って求める指標です。労働生産性は社員1人当たりどれだけの付加価値を生み出したかという指標ですので分母を社員数にすればいいだけです。
ですから生産性を上げる方法は、新たな価値を付加し分子の付加価値を高めるか、効率化によって分母の投下する経営資源を少なくするかのどちらかです。
日本はこれまでどちらかといえばストイックなまでに分母の経営資源削減に着目し、省力化、合理化、生産革新と言った現場改善による効率化によって高品質でありながら低コストで製品をつくり高い生産性で成功を収めてきました。この高い生産性が日本経済の成長を支え30年前にはJapan as No1とか言われるまでになりました。皆さん方の中にもこの日本のものづくりを支え、一時期2桁昇給なんて経験された方もいらっしゃると思います(インフレでもありましたが)生産性が上がらない理由は私が思いつくだけでも大小様々あります。
大きなものを3つほどに絞ってあげてみます。勿論様々ご意見があるのは承知しています。
一つは、誤解を招く恐れがあるので具体的な事例は避けますが、組織の中にはどう見ても直接はおろか間接的にも価値を生み出すことなく無駄と思われる仕事があれやこれや散在していると思います。
特に間接系の業務は放っておくと自己増殖し自然と膨らむ傾向にあります。
誰でも自分の仕事が役に立っていないとは考えませんし考えたくもないはずです。これが既得権となり、一度始めた仕事はなくなりません。これが日本企業は潜在的に失業者を抱え込んでいると言われる原因の一つだと思います。日本と欧米の失業者統計を見て違いを比較すればその理由がわかります。
最近よく話題となる生産性が上がらないのはデジタル化が遅れているからだと言いDXへの関心が広がりつつありますが、この本質的な問題を解決しないまま、いくらDXで生産性を上げようと言っても仕事は一見スマートになったけど無駄な仕事は依然残ったままで思ったほどの効果は期待できないと私は見ています。
デジタル化で大事なことは打ち手の順番でそれを間違えないことです。
二つ目は、誰も痛まず最も効果的に生産性を上げる方法となる分子の付加価値を高めることです。これは、まだ市場で満たされていない高い付加価値を持つ商品・サービスをいかにタイミングよく提供していくかです。
成熟企業の多い日本では、過去の成功体験から脱却できず、大胆な戦略の組み替えが難しくなかなか上手く行きません。新製品・サービスを新たな市場で成功する為には、既存のビジネスとは異なるマネージメントが必要になり、強固なリーダーシップとマネジメントが鍵を握ることになります。
3つ目が、優秀な人材が大企業や特定の企業に偏在している点です。
最近では転職も特別なものではなくなりつつありますがまだまだ人材の流動性は十分とはいえないと思います。大企業にくすぶる優秀な人材を国内で9割を占める中堅・中小企業で活躍できる環境を整えれば、どれだけ生産性が上がるか。誤解のないようにお断りしておきますが、これは中堅・中小企業の優秀な人材がいないという意味ではなく、中堅・中小に大きなプラスの潮流を生み出すには圧倒的に人材が足りないという意味です。
国内でDX化を進めるにも肝心のIT人材の約8割がIT企業に所属している現状では、デジタル化を進めようにも何から手をつけていいのかわからないのが実態でしょう。米国のある企業ではIT人材を積極的に採用、DXで200名いた営業人材を今では2名で運営しているそうです。日本に比べ人材の流動性の高い米国では7割近いIT人材が一般企業で仕事をしているというデータがあります。
以上が私の思いついた日本の生産性が低く給与が上がらない理由です。どの課題も言うが易し行うは難しです。忘れてはならないのが、生産性向上が一部の人だけでなく多くの働く人に恩恵がなければ意味がないところにこの問題の難しさがあるように思います。
仙台マスターズ倶楽部とリブライト社の協働で新たに人事プロフェッショナルの組織化が検討されていますが、組織化された後には各社がそれぞれの事情に沿って働き甲斐のある環境を整えつつ生産性をどう高めていくかをテーマに議論していくことがあってもいいのではないかと思います。
投稿者:工藤 三四郎