会社のトップはよく、「我が社の財産は人だ」などという言葉をよく口にします。
私もその通りだと思います。にもかかわらず経営環境が厳しくなれば真っ先に削られるのも人を育てるための研修費だったりします。
会社はヒト・モノ・カネなどの経営資源を使い、市場に商品・サービスを提供し、そして雇用という大切な役割で社会に貢献しています。
言うまでもなく知恵を絞り、ビジネスを創り、どのようなプロセスでモノやサービスをつくるか、そしてその売り方まで考えるのは人です。
ところが財務諸表BS(貸借対照表)資産の部には、現預金、在庫、固定資産等の資産内容を示す項目がありますが人的資産に関する項目は見当たりません。
財務諸表の中で人に関する項目が出てくるのはP L(損益計算書)で人件費として費用計上されているだけです。
資産ではなく費用ですよ! 何か違和感を感じませんか。
銀行が会社に融資をするかどうか、会社が取引の口座開設をするかどうかは財務諸表を参考に判断するのが普通です。しかし、財務諸表には今後収益の源泉である人材がどれほど揃っているかを判断するための人的資源に関する情報はなにもありません。
上場企業であれば時価総額と総資産(BS)を比較し類推することが可能かもしれません。
経営資源である人が資産として計上されない矛盾は以前から指摘されていたことで、これまでも人的資産をどのように把握し財務諸表に表記するかについて検討がなされてきましたがなかなか納得感のある答えが見つからず今日に至っています。
どのような文脈からかは知りませんが岸田政権が企業の人的投資を促進するために、人的資本への投資の取り組みなどの非財務情報を有価証券報告書で可視化する方向で検討を始めたという記事を雑誌で読みました。日本企業の生産性をあげなければという背景は想像できます。
この取り組みは、やはり会社の収益を生み出すのは人的資源であり、人材育成に使うお金は費用(コスト)ではなく投資と考えるべきだという宣言ではないかと勝手に想像しました。
人材育成にかかるお金が投資という考えが浸透すれば、トップは人への投資のモチベーションとなり、人的資本を厚くするために積極的に投資行動に向かうはずです。
人的資源への投資は設備投資と違い、どうしても投資回収や費用対効果など定量的な評価が難しい面があります。だからこそ人材育成はトップの強いリーダーシップとコミットメントがなければ難しいのだと思います。
長岡藩の小林虎三郎は、藩士が食べるものに苦しむ中、今百俵の米を食べればなくなるが将来を担う若い人材のためにその米を使えば百万俵になって返ってくると藩士を命がけで説得し、人材育成のための藩校を設置した逸話は優れたリーダーの姿勢として学ぶべきだと思います。
優れたトップは、現在と将来の両方をバランスよく考えて意思決定し、行動できる人だと思います。
先日、幹事の橋本さんが送って下さった中小企業白書で、人材育成にお金をかける中小企業とその財務成果の間には有意な関係があり、人にお金をかけている会社の業績はそうでない会社に比べ高いというデータが載っていました。
能力開発され動機づけされた人材は高い確率で会社にリターンをもたらすことを実証するものだと思います。
日本の生産性がOECD 加盟国32カ国中28番目という残念な結果から脱却し、現役世代が満足できる分配を可能とするためにも、今こそ戦略的な視点を持って人に投資すべきではないかと思います。ただ闇雲に人にお金をかければいいという話では決してありませんが。
投稿者:工藤 三四郎