投稿者:工藤 三四郎

先日、車の運転中にラジオを聞いていたら興味深い話があったので紹介したいと思います。その話というのは中国において人間が経営するコンビニとAIが経営するコンビニでどちらが高い成果を上げるかの社会実験をしたという話です。人間とAIどちらが優秀かしばしば議論になります。そしてその結果がどうなったか?

その前に少し中国のコンビニ事情について触れておきたいと思います。

今、中国で日本のセブンイレブン、ローソン、ファミマが出店を急拡大させている。

その背景は、中国では現在もゼロ・コロナ対策をとっており、感染者が出ればすぐ都市封鎖が行われるため住人は生活に必要な食料品や日用品を近場で入手でき利便性の高いコンビニをたよりにしているからです。人気の秘密は便利なだけではなく日本のおにぎりや揚げ物が美味しいと喜ばれているからです。また、日本ではコンビニの店舗数が人口2000人あたり1店舗と飽和しているのに比べ中国ではまだ7000人に1店舗ということでまだ出店余地があり、しばらく出店ラッシュが続くものと考えられます。

この日本のコンビニ進出に対抗するのが「便利蜂」という中国資本の新興コンビニチェーンです。このコンビニは2017年に誕生し、AI、IoT、ビッグデータと言った最新テクノロジーを活用し、QRコードを読み込むだけで決済ができ、何をどれだけ発注するかなど人間の判断を全く入れず全てAIが判断するというまさに最先端のコンビニです。既に2,800店舗を展開し10,000店舗を目指して急拡大を続けています。ところがここにきてこの「便利蜂」の出店スピードにブレーキがかかり始めた。

ここで冒頭で触れた人間店長コンビニとAI店長コンビニの対決の話に戻ります。対決の方法はセブンイレブンなどで店長経験のある10人に経営データを渡し、1人1店舗を任せ1週間かけて商品品目を10%削減し、その売上・利益の成果を比較するというものです。

結果は人間店長は平均して売上5%低下したがAI店長は0.7%しか低下しなかった。AI店長はコストを下げながら以前の売上をほぼ維持し利益は大きく増やした。ここでの実験結果は人間が意思決定に介在すれば業務効率は確実に低下するものだった。

つまりAI店長に軍配が上がった。

ところが、AI店でも商品を棚に並べたり、欠品補充などの作業をするための人は必要なわけです。このAI店長は人の管理に対する人事評価も行い、働きがよくなかったり、ミスの多い店員に対しては「減給処分」を下すという非情な判断まで行っていた。

これに反発した関係者がSNS上で内容を暴露し、順調に店舗数を拡大していた「便利蜂」に逆風が吹き始めたというわけです。

どうやら店員さんがAIに使われるとに嫌悪を感じる感情や、ミスを指摘されたり、このミスが給与にもダイレクト影響を与えるなどで働く意欲を失い、人が集まらなくなったことが急速な拡大にブレーキをかける理由になったというわけです。

「便利蜂」の急拡大に貢献したのはAI、それにブレーキをかけたのもAIという皮肉な結果になり、現段階では戦術では勝利したが戦略で敗れたという状況ではないかと思います。「便利蜂」も黙っていないでしょうから、この勝負はまだまだ続くと思われます。

思うに、AIに人間が支配される社会なんて考えただけでもゾッとします。

数値化された大量のデータを分析し、AIのアルゴリズムにより導き出された結論は人間を超えることができても、人間の感情や心の揺らぎまで分析することはできなかったということでしょう。

例えとして適切かどうかは別にして全ての人が理性的で合理的であれば、少しの段差で動けず、荷物もろくに積めないスーパーカーなどに大金を投じることなどないはずです。でもAIにはそんな車に喜んでお金を払う人が少なからずいる不思議な生き物だということまでは洞察できないんだと思います。

知識労働者の仕事がAIによって置き換わろうとするなか、人間店長とAI店長の対決事例は私たち人間でなければできないことは何かを考えるヒントがあるようにも思いました。