研修グループ主催で佐々木BIP会長からM&Aのお話がありましたが、昨今の事業環境を考えれば興味深い話であったことと思います。残念ながら私は聴く機会を逃してしまいました。
地域企業の経営者の中には後継者で頭を悩まされている方も多いと聞いています。せっかくこれまで苦労して経営を続け、地域経済にも貢献してきた経営者にとっては深刻な問題であることは間違いないでしょう。
優秀な後継者を育てたり、探したりするのはそう簡単ではないので事業を継続するためにM&Aは有益な手段となるのは間違いないと思います。
M&Aは事業承継だけでなく戦略的に事業の組み換えや時間をかけずに事業拡大する手段として活用されており、実行に際しては専門家によるサポート体制などの環境が整いつつあるようです。
M&Aは実際にお金が動くかどうかに関わらず、必ず会社の金銭的な価値の算定が伴います。では、この会社の価格を決める価値算定が具体にどのように決められているかといいますと、概ね3つの方法によって算定されているようです。
純資産を基準に算定。将来の収益を基準とした算定。類似企業との比較による算定。
の3つです。
上場会社であれば案外簡単で、その会社が永年にわたり毎年生み出すキャッシュ利益の現在価値の合計が会社の価値です。
なんだか面倒そうですが、毎年のキャッシュ利益を期待収益率(その会社に何%の利益を期待するか)で割るだけです。例えば毎年10億円のキャッシュを得る会社の価値は、期待収益率を5%とすれば、会社の値段は200億円と言うことになります。基本的な考えはたったこれだけです。
専門家が知恵を絞るのはこの期待収益率をどう考えるかだけです。期待収益率は事業の成長性、事業のリスクや事業を取り巻く環境等によって決められる数値になります。
数値の精度を上げて計算をすれば、その結果が正確になるかといえば、そうとも言えません。
期待収益率がどのくらいかは専門家でなくても株式(会社の売買)市場が確立されていますのである程度は想像がつきます。
日本の株式市場における平均PERは20倍程度です。これは投資家が投資で5%(PERの逆数)くらいのキャシュ利益を得たいと考えていると同じことだと考えられます。
だから期待収益率は5%くらいが妥当ではないかと。
これが事例で使った期待収益率5%の根拠です。
この様な考え方は他の投資対象となる価値評価も同じように考えれば良いので覚えておいて損はないと思います。
例えば毎月10万円の賃貸マンションの価値は同じく期待収益率5%とすれば2,400万円前後が妥当な価格になるでしょう。
設備投資の投資判断(投資事業価値)も初期投資額にマイナス符号をつけ投資で得られた新たなキャッシュ利益の現在価値の合計を足し算しプラスなら実行、マイナスならストップする。
ここで現在価値に割引く数字は期待収益率とは呼ばず、ハードルレートとか資本コストと呼んでいますが考え方は同じです。理論株価算定も同様の考え方で算定できます。(株式投資必勝法ではありません)
上場していない中小企業の場合は純資産に営業利益の3倍から5倍した金額を足し合わせて決められるケースが多いようです。
類似比較を用いる方法は概知の同業、同規模の会社と比較して算定するというものです。
どの方法を用いるかは企業の規模、業界や当事者の考えによって選択されていると思います。実はどの方法を用いるかで価値は大きな開きがあります。算定された価値は相当アバウトなものだと考えた方が良さそうです。
いずれの場合も価値算定には財務諸表が欠かせないわけですが、新しいIT企業などは凡庸な知識では説明がつかない事例が多く見られます。私たちが使っているslackも毎年300億円の赤字を続けているにも関わらず3兆円という価格で買収されたということ記事は、従来の常識では説明がつきません。
孫さんに倣って一儲けを考え、資金調達予定のスタートアップ企業を眺めていますが、創業以来一度も黒字なし、キャッシュフローもマイナスでは例え少額でも私のような小心者にはまず無理です。新しいビジネスモデルで勝負する会社は新しい尺度での評価方法が必要なのでしょう。
今の時代、売上とか利益とかではなく、会社がつくる商品やサービスが社会にどれほど有益なインパクトもたらすのか、経営者がなに者か、などで会社の価値が評価される時代なのかもしれません。
投稿者:工藤 三四郎